リア充お嬢様は 手ごわしvv
         〜789女子高生シリーズ・枝番

         *YUN様砂幻様のところで連載されておいでの
          789女子高生設定をお借りしました。
 



記録的な大雪のみならず、爆弾低気圧も何度も炸裂した冬も、
そろそろおさらばする準備を始めたか。
いきなり20℃越えの夏日になって、
人々が世話になったコートを手荷物にし、
出先での思わぬ忘れ物とさせたりもしたものの、

 「このまま暖かくなるほど甘くも無さそうですよね。」
 「そうですわね。」

そこは毎年のことながら、昨日は暖かだったのに今日は雪がちらついたり、
そうかと思えばまたまた上着要らずの気温やお日和になったり。
行ったり来たりを繰り返し、少しずつ春がやって来るのがセオリーで。
まだまだ朝のうちは吐く息も白くけぶるものの、
陽だまりの中、ジンチョウゲの茂みは赤臙脂に染まりつつあるし、
庭先の木立に遊びに来る小鳥の姿も増えた気が…と。
それはおっとり語らい合うお嬢様がたが何人か、
学校からの帰り道だろか、制服だろうお揃いのいで立ちで歩いておいで。
こちらもまだコートは手放せないままか、
だがだが、するんとした頬はまだまだ冷たいながらも、
瑞々しい笑顔は溌剌としておいでだし。
やわらかな笑み浮かべ、
小さいながらもお声を上げて“やだもう”とはしゃぐところなぞ、
まだまだ年端のゆかぬ小鳥たちが
それでも春を知らせに来たお声と重なるようで
いっそ微笑ましいくらい。
お互いの形のいいお耳を、
やわやわ、でも冷たぁいと細い指先で触りっこしつつ。
話題に上がったことはといえば、

 「卒業式は寒うございましたわね。」
 「そうでしたわねぇ。」

外部へ受験なさるお姉様がたには特に、
年末からこちらは、きりきりと胃の痛い想いをしつつ過ごされただろうが。
不思議と、通り過ぎればあっと言う間だったように思えるもの。
お別れの寂寥と、新天地への期待と不安とに揺れる、
そんな春を前にしておいでのお姉様たちの横顔は、
何て凛々しくも綺麗なのかと。
涙こらえて微笑った先輩たちに代わって…とばかり、
在校生らの中にも貰い泣きした人たちが、少なからずいたようだったがと。
そんなお話を思い出していたからだろうか、

 「あ、道明院のお姉様vv」
 「鷹巣の宮様もvv」

瀟洒なお屋敷の多い閑静な住宅街を縫う道の、
プリムラやビオラといった可憐な花々の鉢がテラスに並ぶ、
広いお庭のお宅の少し先。
JR駅へ向かう道程へと角を曲がる辺りに丁度、
彼女らとやはり同じようないで立ちの、
上級生だろうお二人が歩んでおいでなのが見えたようで。
宮様といっても皇家のお血筋という訳ではなく、
元は華族という財閥の令嬢なのと、
透明感のある毅然としていた態度や言動に憧れた下級生らが、
単なる“さん付け”では恐れ多いとばかり、
そうと呼んでいたまでのこと。
道明院のお姉様というのも、
同じほどの格付けだろう名家の令嬢で、
品があっての凛とした立ち居振るまいと、
なのに、年少さんの至らぬ失態などへの
当たりの柔らかさが素晴らしく。
聖画の大天使様を思わせるよな麗しい風貌を、
優しい笑みにて温めながら、
親身になって相談にも乗ってくださるところから。
やはりやはり
多くの下級生から慕われておいでだったのだけれども。

 「ああでも、
  もうお逢い出来る機会もなくなりますわね。」

お二方ともほんの先週、
10日ほど前に卒業なさったばかりのお姉様がただけに。
アッと声が出そうになるほど、眸を引いたお顔だったものの、
だからと言って軽々しくも声をかけまでは出来なんだ模様。

 委員会の引き継ぎかしら。
 きっとそうよ、道明院様は保健委員長でいらしたし。
 鷹巣の宮様は図書委員長でいらしたものね。

春休みでもあるとは言え、
在庫品の管理や関係各位へのご挨拶、
後を引き継ぐ後輩への様々な申し送りがあるのでと。
何かしらの御用のついでにか、
学園までお顔を出されておいでだったようで。
そういうお人は他にも何人か見受けられるので
特段 珍しいことじゃあないけれど、

 「確か、付属の短大へ進学なさったのですしね。」
 「ええ。」
 「寂しいですが、来年になれば、
  また毎日のようにお会い出来ますわねvv」

それこそ卒業なされたばかりの方々を捕まえて、
早くもそんなことを楽しみにいなさる辺りは
まま、前向きではあるかなぁとの苦笑をこぼしつつ、

 “何だったら今年度だって、
  JRの最寄り駅は同じだから会えるのだけれど。”

椿の茂みの陰にいたこちらに気づかぬまま通り過ぎていった、
同級生たちの他愛ないお喋りが耳に入ったのへ、
余計な茶々をついつい胸の内で呟いてしまった、女学生がもう一人。
勿論のこと、意地悪な揚げ足取りのつもりは毛頭ない。
名前の挙がったお姉様がたは、お二人ともたいそうお優しくて人望もあり、
下級生への面倒見も良かったことから、それは人気もあって、
生徒たちの中、嫌いだと公言する子はまずは居なかろう、
当女学園を代表する模範生なのには違いなく。

 “…っていうか。”

大人たちの仕切る“社交界”へ、
あと数年で飛び込まにゃあならぬ身ゆえのことか。
その準備にお忙しいのと、
せめて大人の目がないところで、息抜きくらいしたいと思うからだろ。
皆様、そりゃあ朗らかだし、人当たりも素晴らしく。
陰湿ないじめも派閥争いも聞かないし、
素行でも言動ででも、皆を怖がらせたり不安にさせるような問題児というの、
とんと見受けたことがないような。
単に良家の子女が通っているというだけでなく、
それはそれは心豊かな淑女たちを育てることでも知られた、
清らかなお嬢様ばかりな女学園であるのは本当で。
文武両道にして才気煥発、才色兼備な 良妻賢母…は ちと違うかな?(笑)
ありえないほど純真無垢な、得難いくらいに天真爛漫にしておいでの、
陽向(ひなた)しか知らないで育ったような
正しく“生粋のお嬢様たち”揃いの夢のような学園、とされていて。

 “それで…こういうものが こっそり流行るのでしょうねぇ。”

彼女の少女らしい白い手へ載っていたのは、
今時の若い世代なら
財布やハンカチは忘れてもこれだけはまず持っていよう、
携帯電話、それもスマートフォンであり。
液晶画面には様々なアプリのアイコンが
ドロップみたいなカラフルさで並んでいて可愛らしい。
小さな指先でちょんっとタップされた無地の一つが開くと、
エントランスやイントロシーンや流れてから、
パッと画面いっぱいに展開するのが、
そりゃあ華やかな美少女のイラスト画像であり。
フレームの四隅に
ランクや特性、星の数が散りばめられているところは、
一見 何かのトレーディングカード風。
でもでも実は、どちらかと言うと育成ゲームなのであり、
毎日会話を重ね、親愛を深めることで、
内緒の秘密を共有出来たり、レアなお洋服を見せてもらえたり、
季節毎のイベントには、可愛らしいメッセージを送って来てくれたり。
そんな恰好で疑似恋愛も楽しめちゃうぞというもので、
前々から結構メジャーなものが多数あって、
中には課金がかかりすぎたり依存症になったりが問題視され、
社会現象にまでなったりもしたほど。
話題になり過ぎてアニメにまでなるほどメジャーな
ポータルサイトやモバイルゲーム会社が展開させている作品は、
それなりの規制を整えていて安心して遊べるものの、
訊いたことのない会社や企業、
ともすりゃあ個人でUPしているものの中には、
時にとんでもない悪質なものも紛れているので、
ようよう注意した方がいいのは
PC用のゾフトやアプリと同じこと…なのだけれど。
携帯モバイルという手軽なツールゆえか、
目の前でお金が動く等、何か起きる訳でもないからか、
はたまた…ウィルスなどともなれば、
仕組みが判ってない働きかけだからか、
要領もよく、しっかりちゃっかりしている今時の子であれ、
存外 無防備なお人も減らないようであり。

 “ま、それは今回は置いといて。”

彼女の手の中、
パステルピンクをベースにした色調のイラストは、
校舎の中だろか、棚の多い室内を背景に、
つややかな黒髪の美少女が、深みのある表情をまろやかに和ませ、
語りかけるように微笑んでおり。
属性だろうハートのイラストが、
トランプマークのように左上に掲げられ。
星は4つで“レア”の横文字がフォログラフっぽく入ってて、
効果とあるのはゲームなら“技”やスキルにあたるのか、
相手陣営を沈黙させ、仲間のMPを最大まで引き上げる、と記されていて。
基本はゲームカードの様式になっているが、

 “アイテム、校章とお別れ、ですか。”

矢をつがえた弓の形のアイコンで、
手に入ったばかりのそれを進呈すれば、あらびっくり。
ちょっとお姉様学年だったらしい美少女は、
卒業証書が入っているものか
黒っぽい筒を手にした姿へ変化してしまい。
少ぉし涙目になってのこと、

 【 卒業しても、逢ってくれますか?】

仄かに落ち着いたトーンの、
だがだが、十分甘いお声で囁いてくれる。
瞬きと口許がぎこちなく動くアニメーションも、
この際はいっそ、
含羞みを醸す効果になっているよな いないよな。
YESを選べば、画像が虹色に輝き、
頬を染めていた美少女さん、そこまではきちんと制服姿だったのに、
新しい展開ということか、
純白の少し大きめのシャツだけをまとった姿になって、
太ももも露出し、どこぞかのお部屋で含羞んでおいで。

 “…大っ人ぁ。”

一線越えたのか? どうなんだ、お父さんは許さんぞと、
そうと言いたくなろう図に変わるのだが。
これもまたファンにはたまらぬ魅惑の画像ゆえ、
皆様、ここを目指して頑張っておいで。
だがだが、そうなるために必要なアイテムを入手するには、
お約束の“課金”がかかる。
メールを何通も出して好感度を高めようとか、
髪形、顔色を毎日褒めてあげようとかいう
無難なところを導入部としつつ。
だがだが、そちらは1日一度だけという制限があり。
となれば、じわじわしか進まないし
しかもしかも、特別な展開に要るアイテムは
そんな蓄積では手に入らないとのネット情報が飛び交っての末。
ファンシーショップで“チャーム・ガチャ”をしようとか、
しまいには、情報交換の掲示板でのアイテム売買なんてことも
ザラになっているのだとか。

 “そんな程度なら、まだ可愛いもんで。”

ぱちりと画面を落とし、
コートのポッケへと仕舞い込んだそれとは別口か、
やはりスマホを取り出したお嬢さん。
とあるメールを確認すると、それをこそ待っていたものか、
久々の薄ら寒さの中で待っていたせいだろう、
固まりかけてた髪やら肩やら
ふるるるるっと仔猫のように揺さぶると、

 「…さて、と。」

出動ですねと、にんまり笑った愛らしいお顔は、
いかにも楽しげで、あくまでも朗らかなそれじゃああったれど。
見ようによっては…ちょっぴり何をか含んでもおいでだったような。
ハミングを奏でつつという軽快な足取りで、
椿のお花におさらばしたそのまま、
静かな住宅街を やはり駅へと向かって歩き出したお嬢さんだが、

  少なくとも

どこかの警部補殿や外科医のせんせえ、
某所の甘味処のご主人が見ていたならば、きっと。

  ―― ちょおっとお待ち、つか、あとの二人はどこだ、と

日頃は温厚穏便を好む彼らでも、
やや強引に構えてのこと、
引き留めたに違いない…と来れば。(…うふふのふvv)





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  *なんか前振りで結構な長さになっちゃいましたね。
   そして、もう先行きもご想像が立っておいでかと思われますが。(笑)
   今回の背景素材がいやにゴージャスなのも、
   そっち系萌えの雰囲気を意識しました。
   こういうのって埃っぽいウチにはあんまり合わないから、
   ドッキドキです、使ってみるのvv


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